安倍晋三首相の突然の解散で始まった師走の総選挙は、与党の勝利に終わった。市民は今後の政治にいろいろな思いを抱いている。富は公平に分配されるのか。ぎりぎりで生活する者の声は届くか。さまざまな願いや注文を聞いた欲しい。選挙の勝ち負けという数に表れない小さな声にも耳を傾ける姿勢を持ってほしい」。集団的自衛権や秘密保護法の議論に、世の中が追いついていないと感じる。 「ぼんやりとした疑問や意見、静かな怒りを持つ人が周りに結構います」。だが、日本の平和をどう守っていくかは、選挙の争点として注目されなかった。
「市民はアベノミクスの恩恵を受けられず、物価高に苦しんでいる。経済政策で富を増やすだけでなく、利益を社会全体にきちんと分配する方法を整えてほしい」。支援する生活保護受給者も月末になると食事の回数を減らすなど、苦しい生活を強いられているという。 「受給者や自殺者の増加は、戦前の米騒動や江戸時代の打ちこわしを生んだ社会不安につながる。このまま何もしなければ不安が高まり、新政権は長くは持たないだろう」。「所得税や医療保険料の累進性を今より高くし、低所得者の家賃補助や子育て世帯への給付などの政策にお金を回してほしい。首相は、ぎりぎりで生活している人の声を政策に反映し、社会不安を払拭するよう努力すべきだ」
教育委員会制度改革や「道徳の教科化」など、矢継ぎ早の教育改革について「政府の方針が、少ない議論でそのまま教育政策になっている。見かけはよさそうに見えても、中身には疑問点が多い。安倍首相の言う改革の中身は吟味した方がいい」と警戒感。道徳教科化について「価値観に関わることを教科として扱えば、内心の自由にも触れる可能性がある。慎重の上にも慎重を期した議論が必要だ」と見る。だが、教科化に向けた国の動きは早かった。「いろいろな場面で議論すべきところを飛ばしている」。小学5年生から英語を正式教科にする政策も「グローバル化という主張が先走りしていないか。評価を伴う教科を作るのは非常に重い。英語嫌いを出さないよう慎重に立案すべきだ」。「国民や専門家の意見を広く聞くべきで、多数派こそ、そうした謙虚さが求められる」と、首相に性急さを改める。
介護、利用者が第一で「財政抑制ありきでない、利用者本位の介護の仕組みを考えて」と注文。政府は団塊の世代が後期高齢者となる2025年に向けて、膨らみ続ける社会保障費を抑制しようと、「施設から地域へ」の流れを加速させている。「認知症の独居高齢者や老老介護は増えているのに、地域で支える仕組みは育っていない」と訴える。介護保険の仕組みは来年度以降、より複雑になり、一部で利用者負担も増える。25年には約100万人の増員が必要とされる介護職員の待遇改善について、安倍晋三首相は公示前に「しっかりやっていく」と発言している。「アベノミクスで景気が良くなっても介護職場に恩恵はない。人生の最後に関われる大切な仕事として、報われるようになってほしい」と願っている。
国民の間で議論が分かれる安全保障問題や、憲法の平和主義への首相の判断を気にかけている。「今回の選挙で国民が白紙委任したわけではないことを自覚してほしい」 政権復帰後のこの2年、安倍政権は特定秘密保護法の成立や集団的自衛権の行使容認の閣議決定を進めた。野党側や報道陣の質問を首相がはぐらかしたり、言葉を荒らげたりする場面もあった。「権力者が野党や国民から批判を受けるのは当然のこと。それが民主主義の基本なのだと理解してほしい」。さらに、「周囲にはお友達だけでなく、いさめてくれる人物を置いてほしい。日本の近現代史、論理学を学び直し、沖縄や震災復興の問題の解決に全精力を注いでもらいたい」と注文する。
与党は今回、衆院では憲法改正発議が可能な3分の2の議席を確保した。「権力者は、国民から負託を受けていることを自覚し、自重すべき時もある。歴史家から厳しい評価を受けることのないように」とくぎを刺したい。首相が進める安全保障政策を挙げて「戦争に送られることを人ごとだと思っていないか」と心配する。野党や報道陣への首相の対応ぶりに「品のよい、価値観が似た人たちの中で育ったせいか、異質な人たちとの調整が苦手なようだ」と印象。「国を愛する心を育てるのは大事かもしれないけれど、自分の思いを押しつけることなく、輪の外側にいる人たちのことも考えてほしい」。