安全保障関連法案をめぐり「法的安定性は関係ない」などと発言した礒崎陽輔首相補佐官は3日、参院平和安全法制特別委員会に参考人として出席し発言を撤回した。「軽率な発言によりご迷惑をお掛けした。心からおわびする」と陳謝後、「法的安定性は重要と理解している」と強調。ただ、続投する意向も、官邸が火消しに走る中で火ダネになりそうだ。政策に関して、首相に進言する立場にある首相補佐官の国会招致は初めて。紺のスーツ姿で礒崎氏が委員会室に現れると、野党からは「凄いフラッシュだ。うらやましい」「辞めるのか」などとヤジが飛んだ。
法の規定や解釈がみだりに変わらない法的安定性を軽視した発言として、批判が強まるが、真意について「安保環境の変化も議論しなければならないことを述べる際に“法的安定性は関係ない”との表現を使ってしまったことにより、大きな誤解を与えてしまった」と釈明。「法的安定性は重要と認識している」と発言を取り消し「今後も首相補佐官としての職務に精励していく」と辞任を否定した。これに対し、各党を代表して質問した民主党の福山哲郎幹事長代理は「(補佐官の職に)居続ける限り追及していく。首相の責任は非常に大きい」と述べ、引き続き礒崎氏の辞任を要求するだけでなく、4日に安倍晋三首相が出席する特別委集中審議で任命責任をただす考えを示した。礒崎氏の「法的安定性は関係ない」との発言には、政権内外から批判の声が上がっていたが、発言に不快感を示していた公明党は謝罪、発言取り消しを受けて続投を容認した。
ただ、安保関連法案をめぐっては、衆院での採決強行を受け、内閣支持率が急落。政権基盤に揺らぎが出る中、首相は丁寧な審議を強調しているが、譲れない一線があった。閣僚の一人は「法案審議で何か起こるたびに辞めさせていたらきりがない」と首相の胸中を解説。礒崎氏が安保法案の策定過程に携わった中心人物だということも背景にある。衆院に比べて野党との議席差が少ない参院では、野党の攻勢が激しくなる傾向にある。野党のみならず、国民からも法案に反対の声が上がっているだけに、自民党幹部は「後から見たら、辞めた方が良かったという事態にならないとも限らない」と不安をのぞかせる。
▼政治評論家小林吉弥氏 礒崎氏の発言は、憲法適合性という法案の根幹を揺るがすもので、首相にとっては大きな痛手。さらに礒崎氏が辞任しなかったことで、今後の法案審議でも野党が追及し、時間を費やす。本筋の法案の説明時間が少なくなり、国民の納得するような答弁ができるか疑問。国民の納得を得られないまま、強行採決や60日ルールを使うと支持率低下だけでなく造反者が出ることも考えられる。
▽法的安定性 ある行為が合法か違法かなど法律上の規定や解釈が大きく変わらずに安定していること。歴代政権が憲法上認められないとした集団的自衛権の行使を、安倍政権が憲法解釈の変更によって容認したことをめぐり、憲法学者から「法的な安定性を大きく揺るがす」との指摘が出た。
▽首相補佐官 内閣法に規定された内閣官房の官職の一つ。官邸機能強化策の一環として96年に設立。重要政策について、首相に直接助言することができる。上限は5人。現職は礒崎氏のほかに衛藤晟一参院議員(国政の重要課題担当)、木村太郎衆院議員(ふるさとづくり推進)と、民間の和泉洋人氏(復興、地方創生、成長戦略など)、長谷川栄一氏(政策企画)の計5人。
◆“法的安定性問題”経過
▼7月26日 礒崎氏が大分県での講演会で「法的安定性は関係ない」などと発言 ▼同27日 自民党・谷垣幹事長が「関係ないとおっしゃったなら配慮に欠けたこと」 ▼同 民主党・枝野幹事長が「行政に携わる資格なしと思っている」 ▼同28日 安倍首相が特別委で「疑念を持たれるような発言は厳に慎まなければならない」と発言。本人を注意したことを明らかにしたが、野党が求める辞任要求には応じず ▼同 礒崎氏は都内で首相らと会食後、報道陣から講演会での発言について問われ、赤ら顔で「何もありません。はい。何もありません」 ▼同31日 公明党・井上幹事長は「進退については自ら判断するのが政治家の基本だ」 ▼同 自民党・吉田参院国対委員長が「誤解を与えたことを陳謝し真意を説明して」