無人島で3日間のサバイバル生活-。エリート社員を対象にこんなユニーク研修を実践する企業がある。チキンラーメンでおなじみの日清食品ホールディングスだ。私物はすべて没収され、その代わり、チキンラーメン3食分などわずかな食材のみが支給される。いずれも調理しなければならず、そのままでは食べられないものばかりだ。なぜ、こんな苛酷な研修を課すのだろうか…。
瀬戸内海に浮かぶ無人島。同社に務める40歳前後の男性社員17人が、3日間のサバイバル研修に挑んだ。彼らは、同社で新任管理職(課長職)に抜擢(ばってき)されたエリート社員たち。「若手管理職の心身を鍛える」のが目的で、15年から無人島や山などでの研修を取り入れている。無人島に着いた社員らは、携帯電話や時計などの私物はすべて没収される。代わりに渡されるのは、チキンラーメンのほか、米1合、小麦粉1カップ、2メートル四方のビニールシート2枚、釣り針と釣り糸1セット、水のみだ。無人島なので、コンビニエンスストアや飲食店はなく、もちろん電気、ガス、水道も通っていない。
島での最初の昼食は、チキンラーメン。数人のグループに分かれて、準備にとりかかった。乾麺のチキンラーメンを食べるには熱湯が必要だが、探検家さながらに自ら火をおこさなければならない。枝や石、落ち葉などたき火に必要な材料を拾い集める。しかし、2時間以上たっても火がつかず、昼食をあきらめるグループもあったという。研修といっても、会社からの指示はほとんどなく、参加者は2泊3日を自由に過ごす。また、最初の昼食はグループで力を合わせるが、もともと、リーダー養成のための研修なので、その後は、グループではなくバラバラに行動するのが原則だ。テレビも新聞もパソコンもないが、時間はたっぷりある。しかし、3日間を飲まず食わずで過ごすわけにはいかないため、それぞれ、快適な“無人島ライフ”を送るために知恵を絞る。また、雨風をさけて寝る場所も自分で作らなくてはいけない。
夕飯用の魚を釣りに出かけたり、貝を拾って食べたり、竹を割って作った器で米を炊いたり…。即席麺大手の社員とあって、支給された小麦をこねて麺を作る参加者も。寝場所もさまざまだ。木の枝にビニールシートをつるしてテントをつくったり、単純にくるまって寝たりと個性が表れるという。 「どんな状況でもやっていける骨太の管理職を養成したい」。日清HDの広報担当者はこう説明する。過酷な環境の中で、自分だけを頼りに行動することで、判断力や発想力、発見力、忍耐力などを養うことができるという。他の企業も同様の趣旨で、さまざまな管理職研修を実践しているが、研修の舞台に無人島を選んだことに深い意味がある。
広報担当者は「極限に近い状況だからこそ、肉体的にも精神的にも成長できる」(同社広報)と力を込める。参加者は口をそろえてこう言う。「手軽に調理して食べることができるチキンラーメンのありがたさがわかった」。自社製品への愛着を再確認する効果もあるようだ。