ここ数日、大阪の桜宮高校二年生の体罰による自殺事件に係わるメールや意見が届いている。バスケットボール部主将の男子生徒が顧問の男性教諭から体罰を受けた後に自殺した問題で、大阪市教育委員会は顧問がほかの部員への体罰も認めている。「発奮させるためだった」と説明しているという。部員50人中21人が体罰を受けたと証言。多くの部員が常態的に体罰被害を受けていた。大阪府警も暴行容疑などを視野に捜査。校長は副顧問ら教員2人が、自殺前日の練習試合の際の顧問による体罰について「恩師の指導に口出しできなかった」と黙認している。
教育現場の指導の中で、どこまでを体罰ととらえるのかは難しい問題です。文科省はいじめや校内暴力などの問題に対応するため、体罰基準の見直しを実施。殴る、蹴るなど身体への侵害や、長時間の起立など肉体的苦痛を与える行為を明示する一方、体罰に当たらない行為も具体的に例示した。それまでの国の基準は、居残り指導や騒いだ子供を教室の外に出すことなども体罰と定義しており、学校現場から「教師が萎縮して児童生徒を指導できない」との声が噴出。このため、居残り指導のほか、授業中に起立させたり、児童生徒を叱って席につかせたりすることなどは、肉体的苦痛を与えるものでない限り、体罰には当たらないとしている。
市教委は体罰を加えた男性顧問を懲戒処分する方針を固めた。遺族側が処分ランクでは最も重い懲戒免職を要求していることも判明。市教委は「生徒が亡くなるという最悪の事態になっており懲戒処分は当然」としており、市の外部監察チームによる調査結果がまとまり次第、速やかに処分する見通し。大阪市では「懲戒処分に関する指針」で、児童・生徒に体罰を行い負傷させた教職員は、免職、停職または減給とすると規定。負傷しなくても常習的な体罰を行った場合は、免職または停職-と定めている。
大阪市橋下市長は、バスケ部顧問による体罰が副顧問らに黙認されるなど「常態化」していたことや、顧問が関与する形で、部員が学校に無届けで共同生活を送っていたことを問題点としてあげ、「校長、教員、学校全体がクラブで勝つことを第一にして歯止めがかからなかった」と厳しく批判。さらに、同校体育科とスポーツ健康科学科の今春の入試中止と、同校運動部の顧問教諭全員の異動を実施しなければ、関連予算を支出しないと表明した。「予算執行権は僕にある」として入試に必要な予算支出を認めない意向を示した。また、同一校での在籍期間が10年を超える教員を、今年4月に原則として一斉に異動させる方針を明らかにした。顧問が18年間同校に在籍し続けたことを「主をつくるような人事」と批判しており、市教委も在籍期間の長期化が事態を悪化させたと判断、改善に乗り出した。
この案件についての橋下市長のやり方は少しやり過ぎに見える。市長には予算執行の権限がある。だが、教育の内容や実務については、教育委員会が担っており、市教委と合意を形成しないまま、市長が予算執行を停止するのは穏当ではない。市長が予算執行の面で締め上げると、教育委員会の独立性が損なわれ、制度を壊すことになる。市教委が今回の件に関して、全く機能していないならまだしも、今まさに協議を進めている最中なのに、市長の権限だけが独立して作用するのは危険と思える。政治的リーダーシップをはき違えているように見える。
中学校校長会は入試実施を求めた緊急要望書を市教委に提出した。要望書によると、各中学校では年内に進路懇談会を済ませて勉学に励んでいるとして「(入試中止は)生徒、保護者に不安と動揺を与えることになり、その影響は非常に大きい」と指摘。実施要項に沿って入試を行うことを求めている。一方、文部科学相の諮問機関「中央教育審議会(中教審)」の初等中等教育分科会は桜宮高の自殺問題をめぐる市教委や学校側の対応などを議論。平成23年9月に顧問の体罰に関する通報があったにもかかわらず、体罰を見逃した市と市教委の対応を「隠蔽体質」と強く批判した。顧問に対しても「子供の人権に対する配慮が欠落していた」などと指摘した。